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大阪高等裁判所 昭和55年(行コ)29号 判決 1982年2月09日

京都市上京区河原町通今出川上ル骨龍町二二六番地

控訴人

株式会社三和書房

右代表者清算人

田中健次

右訴訟代理人弁護士

芦出禮一

益川教雄

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被控訴人

上京税務署長

三好寅正

右指定代理人

一志泰滋

西峰邦男

城尾宏

木下昭夫

杉山幸雄

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四二年一二月二〇日付でなした別表一記載の源泉徴収にかかる所得税を合計金二六九万六三一〇円とする旨の納税告知処分(昭和四四年六月三日付異議決定による一部取消後の金額)を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、立証は次に付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(原判決の訂正)

原判決一五枚目裏二行目「第一一号証、第一五号証、第二七号証の各二」を「第一一、第一五、第二七号証の各二」と訂正し、同三九枚目(別表二の(8))「支払年月40・12」の支払先八段目「清心」とあるを「青心」と訂正する。

(当審における控訴人の主張)

一  被控訴人は、控訴人に対し昭和二八年、同三九年、同四〇年、同四一年、同四二年度における法人税について控訴人が負担すべきものであるとして一度は更正決定をなしたが、控訴人が右決定処分に対し、右は三和企業組合が負担すべきものであるとの理由で各異議申立をなしたところ、いずれも決定全部を取消した事実がある。

右事実によれば、控訴人が営業活動をしていなかったことは被控訴人も認めていたものである。

そうだとすれば、営業活動をしていない控訴人に対し源泉徴収義務があるとしてなした本件納税告知処分は矛盾であり、違法である。

二  被控訴人は、支払先を「教原」「青心」と記載された分も印税支払の対象となる旨主張するが、印税支払先は法人か自然人かのいずれかでなければならないところ、右「教原」「青心」という名称をもって自然人又は法人と認めることは不可能であるから、かような名称をもって印税の支払対象と認定することは対象なきものに対する支払又は受領者(支払先)の特定を欠くことになる。

三  被控訴人は、控訴人から沼正也に対し原稿料として、昭和三八年二月五万円、同年五月六万六〇〇〇円、同三九年二月二万七〇〇〇円、同年六月九万円、同四〇年五月三〇万円、同四一年三月一〇万円、同年五月二〇万円、同年六月三〇万円の支払がなされた旨主張する。

しかし、右のうち昭和四〇年五月の三〇万円と同四一年中の六〇万円は、沼正也が控訴人のため立替払いした諸経費の一部を、控訴人が沼正也に返済したものである。

沼正也は右金員について原稿料として受取ったことを否認し、藤沢税務署長の「所得税に対する課税処分」を不服として、横浜地方裁判所に所得税更正処分無効確認等請求事件を提起し「課税処分を取消す」旨の勝訴判決を得た。

四  原判決添付別表二のうち、鵜沢義行、野間繁、平野常治、佐藤立夫、尾形亀吉に対しての支払分についても、右沼と同様である。

(当審における被控訴人の主張)

一  控訴人の昭和三八年度分、三九年度分、四〇年度分の各法人税決定処分に対する異議決定等における取消しの理由は、決定処分における推計方法が合理性を欠いたことによるものであって、控訴人主張のように課税対象を誤認したことによるものではない(乙第一四九ないし第一五一号証)。昭和四一年度分及び四二年度分の右決定処分については、もとより取消された事実はない。

二  「教原」「青心」の記載は、控訴人の東京支店において、印税支払に関する帳簿の記載上、著者名による記載がなく、便宜的に著者名にかえて著書名が記載されていたため、これをそのまま記載したもので、それぞれ「教育原理概説」「青年心理学」の略称であると思われる。

「教育原理概説」「青年心理学」なる名称の書籍は、当時の控訴人東京支店の帳簿書類(乙第七九、第一一八号証)によって存在したことが明らかであり、これらの著者に対する印税支払があったことは明らかである。

三  控訴人の当審における主張三は準備手続における要約調書の記載に反するものであり、時期に遅れた攻撃防禦方法であって訴訟の完結を著しく遅延させるものでもあるから、却下されるべきである。

本訴における争点は右要約調書により、別表二の(1)ないし(15)記載の支払原稿料にかかる源泉所得税の徴収義務が控訴人であるのか、はたまた三和企業組合であるのかという点にあるとされ、右金員の性質が原稿料であることは争いのない事実とされているからである。

四  仮に右却下の主張が認められないとしても、控訴人が沼正也に対して支払った各金員が原稿料であることは明らかであり、同人の提起した訴訟において、東京高等裁判所は、原審判決を取消してこれを原稿料であると判示し、右判決は昭和五六年二月二八日確定した。

五  控訴人のその余の主張は争う。

(当審における証拠関係)

控訴人は、甲第三八号証(写)、第三九号証、第四〇号証の一ないし五、第四一号証の一・二、第四二ないし第六〇号証、第六一号証の一ないし一二、第六二、六三号証の各一・二、第六四号証の一ないし四、第六五証の一ないし六、第六六号証の一ないし四、第六七ないし第八四号証の各一・二、第八五、八六号証、第八七号証の一・二、第八八ないし第九一号証、第九二号証の一ないし一六、第九三号証の一・二、第九四号証の一ないし一〇、第九五号証の一ないし三、第九六ないし第一〇七号証を提出し、控訴会社代表者本人尋問の結果を援用し、乙第一四九号証以下の乙号各証の成立はすべて認める(第一五二号証、第一六八ないし第一七一号証は原本の存在も認める)と述べた。

被控訴人は乙第一四九ないし第一五一号証、第一五二号証(写)、第一五三号証の一ないし六、第一五四号証、第一五五号証の一・二、第一五六ないし第一六七号証、第一六八ないし第一七一号証(いずれも写)、第一七二ないし第一七五号証を提出し、甲第三八号証以下の認否について、第四一号証の一・二、第八九、九〇号証、第九三号証の一・二、第九四号証の一ないし一〇、第九七号証の成立はいずれも不知、第七四号証の一・二のうち官署作成部分の成立は認めるがその余の部分の成立は不知、その余の甲号各証の成立はすべて認める(第三八号証は原本の存在も認める)と述べた。

理由

当裁判所もまた控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり付加するほか原判決の理由説示と同様であるからこれを引用する。

一  原判決の訂正

原判決一八枚目裏五行目「第六四号証の四」を「第五〇号証、第六四号証の四、第七九、第一一八号証、」と訂正し、同一九枚目表五行目「右支払」から同七行目「にせよ、」までを削除し、同七行目から八行目にかけて「事清」とあるを「事情」と訂正し、同八行目「信用しうる」の次に「し、右「教原」「青心」の記載は、「教育原理概説」「青年心理学」なる著書の略称であって、著者名にかえて著書名を記したものにすぎず、それぞれ右各著書の著者に支払われたものと推認できる」を加え、同行「これを認める」を「右各記載にそう支払がされたものという」と改める。

二  控訴人の当審における主張について

1  法人税について

控訴人は、被控訴人のなした昭和三八年度分から同四二年度分までの控訴人に対する法人税決定処分に対し、右は三和企業組合が負担すべきものであるとの理由で異議申立をしたところ、被控訴人が右決定全部を取消した旨主張する。

昭和三八年度分から同四〇年度分までの各法人税決定処分が取消されたことは当事者間に争いがないが、同四一年度分、同四二年度分の法人税決定処分が取消されたことを認めるに足る証拠はない。

右取消理由は、成立に争いのない乙第一四九ないし第一五一号証によれば、所得計算方法が合理性を欠いたことや欠損を生じていたことによるものであることが認められ、右認定に反する当審における控訴会社代表者の供述は措信しえず、他に控訴人の主張を認めるに足る証拠はない。

そうすれば、控訴人の右主張はその余の点について判断するまでもなく理由のないことが明らかである。

2  「教原」「青心」に対する支払について

印税支払先に対する控訴人の主張が理由のないことは前認定のとおりである。

3  立替金の主張について

控訴人は当審において、沼正也外数名に対する支払は、原稿料ではなく、立替金(沼らが控訴人のためにした立替金)を返済したものである旨主張する。

ところで、本件記録によれば、本件は原審において準備手続に付せられ、第一回(昭和四五年九月二一日)から第四二回(昭和五三年九月一九日)まで約八年の歳月をかけて準備手続が開かれ、第四二回準備手続期日で準備手続が終結され、要約調書が作成されたが、右期日までに右主張のなされなかったことが明らかであるところ、控訴人は当審において右主張をなすことについて民訴法二五五条一項但書の各要件の存することの疎明をしないから、右主張をすること自体許されないものとして却下すべきである。

もっとも、沼正也の提起した別件訴訟の判決言渡が、準備手続終結後の昭和五四年一一月二一日付でなされているから、控訴人が準備手続終結後に生じた事情として右の点に関する主張をなしうるものと仮定しても、成立に争いのない乙第一五二号証ないし第一七五号証によれば、控訴人の援用する右判決は第二審判決(東京高裁昭和五四年(行コ)第一〇八号同五六年二月九日判決)により取消され、同第二審判決は控訴人主張の金員の性質を原稿料である旨判示し、同判決は昭和五六年二月二八日確定しており、右判示のとおり右金員の性質は原稿料であることが認められ、右認定に反する当審における控訴会社代表者の供述は前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らして措信しえず、他に右認定を覆すに足る証拠はないから、控訴人の右主張は理由のないことが明らかである。

三  そうすると、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝田孝 裁判官 岨野悌介 裁判官 渡邊雅文)

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